「たんぱく質欲」と「たんぱく質レバレッジ仮説」について

こちらの書籍の内容が面白かったので紹介します。
『科学者たちが語る食欲』(著)David Raubenheimer, Stephen J.Simpson(訳)櫻井祐子、サンマーク出版

本書の主張をかみ砕くと、「人間を含むあらゆる動物は、一般的に考えられている”食欲”のような曖昧な概念ではなく”たんぱく質欲”を満たすように食事をしており、なおかつたんぱく質過剰になりすぎないよう摂取量を調整する機構が備わっている。」です。
一体どういうことか?

たんぱく質レバレッジ仮説

バッタやハエに始まり、マウスやサル、オランウータン、そして人間を対象に、どのようにして食事から得られる栄養バランスを調整しているのかを調べるためのあらゆる実験が行われました。
そこから得られた解釈はざっくり下記の通りとなります。
①たんぱく質が含まれる割合の低い食事において、一定量のたんぱく質が確保されるまで食べ続ける
②たんぱく質が含まれる割合の高い食事において、一定量のたんぱく質量が確保できた後は食べるのをやめる

これらは、「たんぱく質含有量の低い食事を与えられた群」と「たんぱく質含有量の多い食事を与えられた群」で全体のたんぱく質摂取量はそう変わらなかった、という実験結果によるものです。また、この実験はビュッフェ形式で食事を与えられており、食べたければいくらでも食べることが可能な条件下ですが前者はカロリー過多となり、後者はカロリー過少となりました。

①についてもう少し述べると、「あらゆる動物はターゲット量のたんぱく質を摂取することを優先させる。ターゲット量のたんぱく質を摂取するために過剰な炭水化物と脂質を摂取し、肥満になるリスクを負っている。」です。

また②については「食事のたんぱく質比率が高い場合、エネルギー不足のリスクがあるとしてもたんぱく質の過剰を避けるために総エネルギー摂取量を減らす」とも言えます。

上述の内容に基づき、食事量は摂取したたんぱく質量によって大きく影響を受ける、というのが”たんぱく質レバレッジ仮説です。
(※本書中では単に”たんぱく質レバレッジ”と訳されておりますが、Googleで検索すると”たんぱく質レバレッジ仮説”でヒットしますのでそちらを採用します。いずれにせよ日本語でのスタンダードな呼称は無さそうです。)

なぜたんぱく質の過剰を避けるのか?

ところで、②についてもう疑問が湧きせんか。
なぜ体重維持に必要なエネルギー量に満たないとしても、たんぱく質の過剰を避けようとするのか?」です。ビュッフェ形式であっても被験者は食べるのをやめるのです。

エネルギーの枯渇は死をもたらします。肥満の多い現代人には減量はいいことのように思えますが、人類史全体を見ればむしろいかに生存に必要なエネルギーを得るかが問題であったわけです。

つまり、たんぱく質の過剰がもたらす非常に望ましくない影響があるのではないか?ということが推察されるのです。
しかしながら、この問いに関する本書の答えはありません。
実際、たんぱく質の過剰が体に悪いという証拠はあります(キーワード「ウサギ飢餓」でググってみてください。)。本書ではこの後、寿命と繁殖はトレードオフであることについて解説されているのですが、これについてはたんぱく質過剰を避けるための説明にはなっていないと感じます。かゆいところに手が届きませんでした。

所感① トレーニーはプロテイン悪説に反発しすぎではないか

とはいえ、トレーニー界隈あるあるとして、医者の「たんぱく質の過剰は良くない」とか「プロテインは良くない」という主張にものすごく反発をする、ということがあるかと思います。
私もプロテイン飲みますし、むしろ反発していた側の人間なのですが、やっぱり過剰は良くない可能性が高いなあというのが本書から感じた私の見解です。「プロテインがよくない」は言い過ぎだと思いますが「プロテインの飲みすぎはよくない」なら納得です。

たんぱく質とたんぱく質過剰は違います。”カロリー過少”より”たんぱく質過剰”の方が悪いとする体のメカニズムになっているですから、それに従っておいた方が無難だと思います。プロテインのような加工食品はそれに従わずに飲めてしまう節があるので、何も考えずにバカバカ飲むのは危険だというのだとすればその通りだと思います。

所感② 食事に興味を持とう

本書の後半は、現代の超加工食品の問題点について指摘しています。この辺りは多くの健康本と同じ内容なので特筆することはありません。
ですが、超加工食品がやはり肥満の一因となっていることは本書をよむことでより納得感が得られました。

ゼロカロリーの人工甘味料については「甘味を感じるのにエネルギーを得られないから、体がもっと甘いものを求めるようになってしまう」みたいなことはよく言われますが、「たんぱく加水分解物」や、調味料としての「アミノ酸」も似たもの同士だと思いました。
うま味というのはたんぱく質が含まれていることのシグナルです。人間はうま味を味蕾で感じることができますから、強烈なうま味を感じる人工的な「たんぱく加水分解物」や「アミノ酸」が添加された超加工食品を食べてしまう。でも、その強烈なうま味に対して実際に含まれるたんぱく質量は低いのでたんぱく質欲は満たされずもっと食べてしまう。

みんなが栄養成分表示と原材料表示を見るべき、とまでは思いません。ただ、超加工食品にまみれた現代社会において、普段自分が食べているものがどんなものか、我々はもう少し興味を持った方がよいのではないかと思いました。

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