【栄養】炭水化物のキホン(糖質は悪か?)

糖質を悪とする論調がもてはやされる昨今、あなたは糖質についてどのくらい知っていますか?今回は糖質、もとい炭水化物について私が知っていることや最近調べたことについてまとめました。

前提知識

炭水化物と糖質と食物繊維

始めに単語の確認をしておきます。
下図に示す通り、”糖質”は三大栄養素(人間がエネルギー(カロリー)を得ることのできる栄養素)の一つです。そして”炭水化物”とは”糖質”と”食物繊維”の総称のことです。

”糖質”は体内で消化吸収されてエネルギー(カロリー)となりますが、”食物繊維”は消化されないためエネルギー源にはなりません。では”食物繊維”は摂取する意味がないのかと言うとそうではなく、大腸で整腸作用などのプラスの働きをもたらします。
このように全く異なる働きをする糖質と食物繊維がなぜ同じ炭水化物とくくられているのかと言うと、構成物(後述)が同じだからです。

糖質についてもう少し

糖質を摂取すると血糖値が上昇します。血糖値の上昇を感知したすい臓は、インスリンというホルモンを分泌し、血糖値を下げようとします。この血糖値を下げる過程で糖質が細胞に取り込まれ、必要に応じてエネルギーとして利用されます。
「なんか栄養が入ってきたっぽいから吸収しよう。それいけインスリン。」というわけです。
ちなみに糖尿病とは、インスリンの分泌不全、あるいはインスリンが分泌されても血糖値が下がらなくなってしまうこと(インスリン抵抗性)により高血糖状態が続いてしまうことをいいます(注1より)

炭水化物は3種類の単糖類の組み合わせである

基本的に炭水化物は次の3種類の単糖類の組み合わせでできています(注2, 3 を参考にしました)

単糖類

人間は体内で炭水化物を消化していき、最終的に単糖類まで分解します。そして、単糖類まで分解されるとエネルギーとして利用されます。逆に言うと単糖類まで分解できないものは、人間は吸収することができません。食物繊維がまさにそれですが、糖質のなかにも人間がほとんど吸収できないものも存在します。

ブドウ糖(グルコース):でんぷんやセルロースといった多糖の構成成分として自然界に多く存在する。また、ハチミツに多く含まれる。人間にとって最も重要な単糖類。エネルギーの他、遺伝情報を担うDNA、RNAの生合成の成分としても使われる。
 (補足:ブドウ糖には2種類の光学異性体があり、自然界に存在するものを特にデキストロースと呼ぶ。)
果糖(フルクトース):果物やハチミツに多く含まれる。強い甘味が特徴。また、ブドウ糖とは異なり、肝臓で即座に代謝される(ブドウ糖よりも代謝が速い)反面、急激に血糖値が上がるため、摂りすぎによる糖尿病や動脈硬化のリスクが懸念されている。
ガラクトース:天然には、ブドウ糖と結合した乳糖(ラクトース)として存在する。

二糖類

単糖類が2つ結合したものを二糖類といいます。主なものは下図の通りです。

麦芽糖(マルトース):水あめ、麦芽などに含まれる。
ショ糖(スクロース)いわゆる”砂糖”のこと。さとうきびやてんさいに多く含まれる。強い甘味が特徴。
乳糖(ラクトース):乳製品に含まれる。日本人は乳糖をブドウ糖とガラクトースに分解する”ラクターゼ”という消化酵素が少ない傾向にあり、乳糖を摂取すると消化不良、下痢などを引き起こす乳糖不耐症”が多い(注4より)

オリゴ糖

単糖類が3個~10個程度結合したものをオリゴ糖といいます。オリゴ糖は人間の消化酵素では分解されず、エネルギー源になりにくいという特徴を持ちます。(そのため、食物繊維と位置付けられることもあるようです。(注5より)

天然に存在するものとしてはラフィノース(てんさいに含まれる)やスタキオース(カボチャや豆腐に含まれる)があります。

他にもオリゴ糖はたくさん種類がありますが、グルコースのみで構成されたものはマルトオリゴ糖といいます。α-1,6-グリコシド結合(分岐構造)をもつイソマルトオリゴ糖は天然にはハチミツ、その他には清酒、みりん、味噌、醤油などの発酵食品に存在するようです(注6より)

多糖類

たくさんの単糖が結合してできたものです。ブドウ糖が結合してできたものを”でんぷん”、それ以外のものを”非でんぷん性多糖類”と分類されます。
でんぷんには”アミロース”と”アミロペクチン”があります。前者は直鎖状の構造をしており、後者は多くの分岐構造を含みます。

ちなみに、アミロースを含むでんぷんを粳(うるち)、含まないでんぷんを糯(もち)といいます。うるち米、もち米とはアミロースを含むか含まないか、の違いなのです。

非でんぷん性多糖類は、”セルロース”、”ヘミセルロース”、”ペクチン”があります。

セルロース:ブドウ糖が結合してできた不溶性食物繊維。
ヘミセルロース:食物の細胞壁を構成する多糖類の中で、セルロースとペクチン以外の多糖類の総称。水溶性食物繊維。
ペクチン:細胞壁の構成成分として存在し、柑橘類に多く含まれる。不溶性食物繊維。

結局、食物繊維とは

少し厄介なのですが、『非でんぷん性多糖類 = 食物繊維』というわけではないようです。オリゴ糖の項でも述べましたが、オリゴ糖を食物繊維に含むこともあるようですし、甲殻類の外骨格やキノコなどに含まれる”キチン”や”キトサン”という栄養素も食物繊維の働きをもたらすようです(注7より)

ということで、食物繊維は食物繊維だけでここでざっとまとめておきます。
・水溶性食物繊維
 ペクチン、グルコマンナン(こんにゃく芋)、イヌリン(ごぼう、キクイモなど)、フコダイン(褐藻類)、βグルカン(菌類から植物まで)、カラギーナン※1(紅藻類)など
 ※1 食品添加物として使用されるカラギーナンは発がん性の疑いがあるため注意

・不溶性食物繊維
 セルロース(植物の細胞壁)、キチン、キトサン(甲殻類の外骨格、菌類など)

炭水化物まとめ

炭水化物のまとめ図を貼っておきます。

糖アルコールとは

糖質について調べていると、”糖アルコール”という単語に出くわすことがあります。キシリトールやエリスリトール、ソルビトール、マルチトール、マンニトール、イソマルト、還元水あめなど、多くは「〇〇ール」という名称となっているものが糖アルコールです。これは何なのでしょうか?

炭水化物の中には還元性(還元とは酸化の逆の働き)を示すものがあります。炭水化物中のカルボニル基が還元されたものを糖アルコールといいます。糖アルコールは甘味を持ちますが、小腸で吸収されにくく、低カロリーな代用甘味料として用いられます。砂糖の数百倍の甘味を持つ”高甘味度甘味料”(アスパルテーム、アセスルファムK、スクラロース)などと比べ、比較的人体への悪影響は少ないと言われています。
ただし、大腸に届くとお腹をゆるめる作用があるため、摂りすぎには注意が必要です
(注8より)

糖質は悪なのか?について個人的見解

近年は本当に糖質を悪とする論調をよく目にします。
その内容は正しいかもしれませんが、糖質に限らず何事もバランスが大事だと私は思います。水ですら摂りすぎたら悪影響があるのですから、1か0かの話ではないのです。

ケトジェニック食は体にいいかもしれません。なので、十分に知識を得たうえで健康目的で実践するのはよいと思います。(私もそのうち実践してみようと思っています)
ですが、単にダイエットをしたいだけなら低脂質ダイエットの方が簡単で安上がりですから、そちらがよいはずです。

簡単にケトジェニック食に手を出せない理由は、個人的には大きく下記3つがあげられます。
・糖質を摂らない代わりに油をとる必要がありますが、油には明確に「よい油」と「悪い油」があります。糖質の代わりといって「悪い油」つまりは酸化している油や飽和脂肪酸を大量に摂っていいことにはなりませんから、「よい油」をたくさん摂る必要があります。「よい油」は安くありません。
・糖質の摂取量を抑えるために”低糖質”と謳われた加工食品を摂取することもあるかと思いますが、それらには砂糖の代わりに高甘味度甘味料(アスパルテーム、アセスルファムK、スクラロース)が入っているものが多いです。個人的には、砂糖よりそれらの人工甘味料の方が安全だとは思いません。
・外食で低脂質の食事をとることは比較的容易(揚げ物でない定食、海鮮丼、SUBWAYとか選べばよいので)ですが、外食でケトジェニック食をとろうとすると難易度が跳ね上がります

なお、近年では少なくとも縄文時代後期には稲作が行われていたことがわかってきており、つまりは3000年以上前から日本人は米を食べていたことになります(注9, 10より)
糖質を悪とする論調には「日本人が米を食べるようになったのはつい最近のことであり、体はケトジェニック食をとっていた狩猟採集民のころから変わっていない」とするものが多いです。
(注11)より抜粋、「もっとはるか前の縄文時代には、日本人としての私たちの遺伝子は完璧に出来上がっていたはずです。その頃の日本人は、狩猟・採集生活を送っており、お米など食べていませんでした。」と書いてありました。繰り返しますが”少なくとも縄文時代後期には稲作が行われていた”ことがわかってきてますからこれは誤りです。そして、日本は3000年以上米を食べてきて世界一の長寿国になったわけですから、悪ではないのではないでしょうか。
私が思うに、ケトジェニック食を是とするのと、糖質を悪とするのは別問題です。

もっと日本食に誇りを持ちませんか?

参考
注1) くにちか内科クリニック『血糖とインスリン』https://www.orthomolecular.jp/nutrition/carbohydrates, (参照 2021-09-12)
注2) 飯田薫子/寺本あい (2019) 『一生役立つ きちんとわかる栄養学』西東社
注3) 中外医学社『炭水化物の分類』http://www.chugaiigaku.jp/upfile/browse/browse1187.pdf, (参照 2021-09-12)
注4) 長野県医師会『「乳糖不耐症」と「牛乳アレルギー」』https://www.nagano.med.or.jp/general/project/topics/detail.php?id=355, (参照 2021-09-12)
注5) 日本海藻協会『食物繊維の定義と分類』
http://www.japan-seaweed-association.com/, (参照 2021-09-12)
注6) 昭和産業『イソマルトオリゴ糖とは』
https://www.showa-sangyo.co.jp/pro/glucose/isomalto01.html, (参照 2021-09-12)
注7) 日本キチン・キトサン学会『キチン・キトサンQ&A』
http://jscc.kenkyuukai.jp/special/?id=1932, (参照 2021-09-12)
注8)さわやか内科クリニック『第16回 ~糖質のはなし②~』
https://sawayaka-mcl.com/harmony/%E7%AC%AC16%E5%9B%9E%E3%80%80%EF%BD%9E%E7%B3%96%E8%B3%AA%E3%81%AE%E3%81%AF%E3%81%AA%E3%81%97%E2%91%A1%EF%BD%9E/, (参照 2021-09-12)
注9) 米穀機構 米ネット『1-3 伝わったのは縄文時代の終わりころ』
https://www.komenet.jp/bunkatorekishi/bunkatorekishi01/bunkatorekishi01_3, (参照 2021-09-12)
注10) 岡山県古代吉備文化財センター『稲作ことはじめ』
https://www.pref.okayama.jp/site/kodai/632621.html, (参照 2021-09-12)

注11) DIAMOND online『「ご飯は日本人のソウルフード」は誤解!医者が糖質制限をすすめる理由』
https://diamond.jp/articles/-/221324, (参照 2021-09-12)

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