【経済】GDPがわかれば経済に明るくなれる

国の経済力を示す指標としてGDPというものがあります。
GDPを理解することで、経済の見方について基本を押さえることができます。
というわけで、GDPやそれに関連する指標をざっとまとめてみました。

GDPとは

GDPは日本語で国内総生産といいます。
文字通り、国内で生産された付加価値(財やサービス)の合計のことなのですが、まずは簡単な例を見てみましょう。

1. リンゴ農家のAさんが銀行から1万円の融資を受ける。
2. Aさんはミカン農家のBさんから1万円分のミカンを購入。1万円がBさんのもとに渡る。
3. Bさんはブドウ農家のCさんから1万円分のブドウを購入。1万円がCさんのもとに渡る。
4. Cさんはリンゴ農家のAさんから1万円分のリンゴを購入。1万円がAさんのもとに渡る。
5. Aさんは一万円を銀行に返済する。(簡単のため利子はなかったものとする)

一万円が銀行から出てきてAさんBさんCさんをぐるっと1周して銀行に戻りました。
このときのGDPは何円でしょうか?



…一見何事もなかったかのようにも思えますが、このときのGDPは3万円となります。
AさんBさんCさんはそれぞれ1万円分の果物という付加価値を生産したのですから、合計は3万円ですよね。

GDP三面透過の原則

GDPには生産支出所得の分配の三つの側面があります。
これらの合計は必ず一致します。これをGDP三面透過の原則といいます。

先ほどの例を丁寧に考えてみると、
 ・Aさん、Bさん、Cさんはそれぞれ1万円分の付加価値(果物)を生産した
   → 生産の合計:3万円
 ・Aさん、Bさん、Cさんはそれぞれ1万円分の支出をした
   → 支出の合計:3万円
 ・Aさん、Bさん、Cさんにはそれぞれ1万円分の所得が分配された
   → 分配の合計:3万円


つまりGDPとは、生産の合計であり、支出の合計であり、分配の合計であるのです。

小休憩 ~売れ残りはどうなるのか?~

ところで、生産して売れ残った分はどうなるのか?という疑問があるかもしれません。
結論としては、GDPに計上されるようです。
下図にGDPの内訳を示しました。(注1より)

GDPの内訳に民間在庫変更、公的在庫変動というものがありますが、これらがその期に新たに生産した売れ残りに該当します。

個人的にはてっきり計上されないものと思っていたので、どんな扱いとなっているのかを調べまして、納得感ある解説を持ってきました。(注2 コラム1より)
「これから売れそうだから、今のうちに積極的に在庫を増やしておこう」ということで、一応投資として計上されるようです。
自分で生産したものを自分で投資(=支出)して自分に分配されるのですから、やはり三面透過の原則は成り立ちます。
注1より、全体から見て在庫の金額自体が小さいので、あまり気にしなくてもよい指標であると個人的には落ち着きました。 (過剰な在庫を抱えてもよいことがないので、金額が小さいのは自然ですよね。)

生産されるのは付加価値

一人が無から全てを生産することはほとんどありません。
例えば材料や部品を買ってきて、加工をすることで別の生産財を生み出すことの方が多いでしょう。
GDPでいうところの生産とは付加価値のことです。
下図を参照ください。

 ・A社が付加価値\10,000の生産財を販売した
 ・B社はA社から生産財を\10,000で仕入れ、付加価値\3,000を加えた新たな生産財を生み出した
 ・さらにC社はB社から生産財を\13,000で仕入れ、付加価値\5,000を加えた最終消費財を生み出した
 ・最終消費財を\18,000で消費者が購入(消費)した。


A社は\10,000の付加価値、B社は\3,000の付加価値、C社は\5,000の付加価値をそれぞれ生み出したのですから、合計して生産面のGDPは\18,000。
消費者が\18,000でC社から最終消費財を購入したのですから、支出面のGDPは\18,000。
A社は付加価値分の\10,000、B社は付加価値分の\3,000、C社は付加価値分の\5,000がそれぞれ分配されたのですから、分配面のGDPは\18,000。

外国とのやり取りは?

輸入

生産財が外国からの輸入品である場合を考えます。

上図の場合、最終消費財は同じく\18,000ですが、そのうち外国から輸入してきた付加価値が\10,000分含まれています。
GDPは国内で生産された付加価値の合計ですから、輸入してきた分は含まれません。
生産面のGDPは\8,000です。

ところで、GDPの中に純輸出というものがあります。

消費者が購入した最終消費財は\18,000ですが、純輸出(= 輸出額 – 輸入額)は\10,000のマイナスです。よって支出面のGDPは\18,000から\10,000を差し引いて\8,000となります。

分配面のGDPは、B社付加価値分の\3,000、C社付加価値分の\5,000が分配されたので\8,000となります。

輸出

続いて、最終消費財が輸出された場合を考えてみます。

今度は最終消費財が外国に輸出されたとします。

生産面と分配面のGDPは最初の例と同じで\18,000。
支出面のGDPは純輸出分の\18,000となります。

ここまでの例で、GDPとは生産の合計であり、支出の合計であり、分配の合計であるということがよくわかったのではないでしょうか。

所得の創出プロセス

”経済”には、実体経済金融経済の2種類があります。金融経済はお金の貸し借りの話であり、今回のGDPとは関係がありません。
実体経済において付加価値が生産され、支出がなされ、所得が生み出されます。
GDPとは実体経済における活動の結果であるのです。
所得は下記のプロセスによって創出されます。

①生産者が労働により付加価値を生産する
 ↓
②生産した付加価値を他の誰かに消費(あるいは投資)してもらう
 ↓
③生産者が所得を得る
 ↓
所得を得た生産者がお客さん側に回り、他の誰かの生産した付加価値を消費・投資する


図に表すと下図のようになります。

家計のことだけを考えていると見失いがちですが、誰かの支出は誰かの所得になります
また、誰かの所得は誰かに支出してもらうことによって生まれているのです。

名目GDPと実質GDP

GDPには名目GDP実質GDPがあります。
名目GDPはここまでで示したように金額ベースで求められており、物価の変動が考慮されていません。
ある年とある年のGDPを比較する場合、例えば名目GDPが2倍になったとしても、物価も同じく2倍となっていたら豊かになったとは言えませんね。
このような物価の変動を取り除いたものを実質GDPと言います。
これらの考え方の違いはこうです。(注3より)

ある年、パン屋が1個100円のパンを100個販売した(簡単のため、パン屋が付加価値 = 100円とする)。
翌年、物価の上昇によりパンは1個120円に値上がりしたが、お店の人気も出てきたことからパンは120個販売できた。
このとき、
 → 名目GDP: 120 (円) ×120 (個) = \14,400
 → 実質GDP: 100 (円) ×120 (個) = \12,000


名目GDPでは販売された金額通り120円で計算しますが、実質GDPでは物価の上昇分20円を差し引いた100円で計算します。
物価が下落した場合も考えてみます。

ある年、パン屋が1個100円のパンを100個販売した(簡単のため、パン屋が付加価値 = 100円とする)。
翌年、物価の下落によりパンは1個80円に値下がりしたが、パンは120個販売した。
このとき、
 → 名目GDP: 80 (円) ×120 (個) = \9,600
 → 実質GDP: 100 (円) ×120 (個) = \12,000


この2つの例で販売されたパンの数は同じであり、実質GDPが一致しています。一方で物価上昇した場合は名目GDPは上昇し、物価下落した場合は名目GDPも下落しています。

GDPデフレーター

GDPデフレーターという指標があります。これは次の式により求められます。

GDPデフレーター[%] = 名目GDP ÷ 実質GDP × 100

例えば上述のパン屋の例では、
 物価上昇した場合の GDPデフレーター = 14,400 ÷ 12,000 × 100 = 120[%]
 物価下落した場合の GDPデフレーター = 9,600 ÷ 12,000 × 100 = 80[%]

と求められます。
GDPデフレーター目線で考えると、GDPデフレーターが100%よりも大きい場合、基準年よりも物価が上昇している。逆にGDPデフレーターは100%よりも小さい場合、基準年よりも物価が下落している、とも言えます。

各国GDPの比較

上述の内容を踏まえて、各国(2020年名目GDP 上位4か国)の指標を比較してみましょう。

米国
(単位: [10億ドル])
中国
(単位: [10億人民元])
日本
(単位: [10億円])
ドイツ
(単位: [10億ユーロ])
名目
GDP
実質
GDP
GDP
デフレーター
[%]
名目
GDP
実質
GDP
GDP
デフレーター
[%]
名目
GDP
実質
GDP
GDP
デフレーター
[%]
名目
GDP
実質
GDP
GDP
デフレーター
[%]
1997年 8,578 11,522 74.45 7,942 13,717 57.90 543,545 477,270 113.89 1,961 2,389 82.09
2007年 14,452 15,626 92.49 27,050 35,582 76.02 539,282 526,681 102.39 2,500 2,806 89.03
2017年 19,543 18,144 107.71 82,898 79,052 104.87 553,073 551,220 100.34 3,260 3,174 102.70
1997~2007年の変化
228% 157% 1044% 576% 102% 115% 166% 133%

※値は(注4~7)を参照し、名目GDPおよび実質GDPは小数点以下を四捨五入しております。
※下記に留意してください。
・GDPデフレータが100[%]よりも小さい デフレである
・GDPデフレータが100[%]よりも小さい = 基準年よりも物価が低い
・GDPデフレータが100[%]よりも大きい = 基準年よりも物価が高い


1997年から2017年にかけて中国の伸びは凄まじいですが、米国やドイツといった主要先進国もある程度の伸びが見られます。
注目したいのは、日本以外の各国は、名目GDPと実質GDPどちらも大きくなっています。
日本は名目GDPはほとんど変わっておらず、実質GDPだけが少しだけ大きくなっています。
これは先ほどの”物価が下落した場合のパン屋の例”と同じです。
GDPデフレーターは日本にだけ下がっていく傾向が見られます。

物価が下がっていて名目GDPが変わってなければ豊かになっている?

「物価が下がっていて、名目GDPは変わっていないのだから豊かになっているのでは?」という意見があるかもしれませんが、そうではありません。
なぜなら、下図の通り過去20年間で明確に平均給与の下落が見られます (注8より) し、なにより物価の変動を差し引いた実質賃金も下がってます(注9 より)
実質賃金が下がっているということは、物価が下がっている以上に給与が下がっているということです。


分配面のGDPに関して補足ですが、企業が得た付加価値は家計(給与)、企業(営業余剰など)、政府(税)のいずれかに分配されます
我々の給与が減っていて、その代わりに企業あるいは政府(多くは企業だと思いますが)に回っているのです。
長期にわたるデフレによる景気低迷のため、企業にとっては従業員の給与を増やしたり、(そもそも需要がないため)生産性向上のための設備投資を増やしたりするようなことはやりづらいはずです。

【経済】インフレとデフレと日本が成長しなくなった理由で示した通り、デフレの原因は需要が供給に対して不足していることですから、企業がお金を使えないならば代わりに政府がどんどんお金を使わなければデフレ脱却できないという話にも繋がってきますが・・・無限に話が長くなってしまいそうなので今回はここまでにします。



参考
注1) 内閣府『統計表(四半期別GDP速報)2021年』
https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2021/toukei_2021.html, (参照 2021-08-27)
注2) 宮崎県公式Webサイト『第1章 日本の経済』
https://www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/660700.pdf, (参照 2021-08-27)
注3) 大和ネクスト銀行『今さら聞けない 名目GDPと実質GDPの違いとは何か』
https://www.bank-daiwa.co.jp/column/articles/2016/2016_18.html, (参照 2021-08-29)
注4) 世界経済のネタ帳『アメリカのGDPの推移』
https://ecodb.net/country/US/imf_gdp.html, (参照 2021-08-29)
注5) 世界経済のネタ帳『中国のGDPの推移』
https://ecodb.net/country/CN/imf_gdp.html, (参照 2021-08-29)
注6) 世界経済のネタ帳『日本のGDPの推移』
https://ecodb.net/country/JP/imf_gdp.html, (参照 2021-08-29)
注7) 世界経済のネタ帳『ドイツのGDPの推移』
https://ecodb.net/country/DE/imf_gdp.html, (参照 2021-08-29)
注8) 厚生労働省『平均給与の推移』
https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/19/backdata/01-01-08-02.html, (参照 2021-08,29)
注9) 全労連『実質賃金指数の推移の国際比較』
https://www.zenroren.gr.jp/jp/housei/data/2018/180221_02.pdf, (参照 2021-08-29)

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