本記事は下記の書籍の内容を整理し、単に個人的理解を深めるためにまとめたものです。
中野剛志(2019)『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】』 ベストセラーズ.
日本が成長しなくなった理由
1995~2015年の名目GDP成長率について、
・世界平均は+139%
・中国は+1414%
・成長率の低いドイツでも+30%
・日本は最下位の-20%かつマイナスなのは日本だけ
平成の日本経済は世界的に見ても明らかに異常であり、よほど間違った経済政策を長期にわたって続けない限り、このようなことにはならない。
具体的には、「デフレ下におけるインフレ対策」という愚行によりデフレが続き、経済成長しなくなった、ということ。
インフレとデフレ
前提知識
・インフレは「一定期間にわたり物価が継続的に上昇する現象」
・デフレは「一定期間にわたり物価が継続的に下落する現象」
日本の物価上昇率(コアコアCPI*1)は1998年以降、(消費増税による一時的な物価上昇を除いて)およそ20年間マイナスであり、「日本経済は基本的に1998年以降デフレであり続けた」と言える。
*1 天候や外国の事情の影響を受けやすい生鮮食料品とエネルギーを除外した消費財・サービスの物価についての尺度
デフレの原因
経済全体の需要(消費+投資)が供給に比べて少ない状態が続くこと(需要不足/供給過剰)
反対に、需要過剰/供給不足が続けばインフレとなる。
デフレの問題点
デフレの原因である需要不足/供給過剰が解消しない状態が続き、経済成長が止まってしまう。
解消しない要因は下記があげられる。
◆悪循環
一旦デフレに陥ると次のような悪循環が引き起こされる。
①需要不足/供給過剰がデフレを引き起こす
②デフレによりモノが売れないため企業は赤字が続き、倒産したり労働者の賃金が下がったりする(あるいは失業する)
③賃金が下がった労働者は”消費”を減らすため、”需要”がさらに減少する(①に戻る)
◆貨幣価値の上昇による消費や投資意欲の減退
「物価の継続的な下落」は、言いかえると「貨幣の価値が継続的に上昇すること」を意味する。
人々はモノよりもおカネを欲しがるようになり、消費者や企業は消費や投資を控え貯蓄を増やすようになる。
また、企業が行う大型の投資や、個人がローンを組んで大型の消費(住宅や自動車の購入)をする際に銀行からの融資を受けるが、貨幣価値の上がっていくデフレ下では、「借金は、借りたときよりも返すときの方が実質的に膨らんでいる」から、銀行からの融資を受ける人が減り、むしろ返済を急ぐようになる。
→需要が減少する。借り手がいないので金利がどんどん下がり、銀行は利益が減るため苦境に立たされる。
インフレについての注意点
経済成長は基本的にはインフレを前提としている。
←デフレ時とは反対に、インフレでは貨幣価値は下がっていく。借金は借りたときよりも返すときの方が貨幣価値が下がっているので、消費者は積極的にローンを組んだり、企業は銀行融資を受けて事業拡大を図る。
一方でインフレが行き過ぎるのもよくない。
①人々が大胆にお金を借りてリスクの高い資産にまで手を出す
②何かをきっかけとして(例えば金利の上昇など)、手を出した資産のリスクの高さに気づいてリスク資産を手放そうとする
③資産の投げ売りの連鎖が始まり、バブルが崩壊する
政府はデフレにならないように、かつ過度なインフレにならないように運営しなければならない。
デフレは合成の誤謬
デフレは需要不足/供給過剰の状態なので、消費や投資(つまり需要)を増やせばデフレ脱却できるのであるが、デフレ下で民間(個人や企業)が消費や投資を抑えるのは経済合理的な行動である。
しかし、 民間が支出を減らすことで需要が縮小すればますます景気は悪化することになる。
合成の誤謬とは、「個々の正しい行動でも、それが積み重なった結果、全体として好ましくない事態がもたらされてしまう」ということ。
デフレは合成の誤謬の典型である。 個人や企業といったミクロレベルの行動で解決できないため、マクロの経済全体の運営をつかさどる”政府”が直すしかない。
何故政策を間違ってしまうのか?
日本政府が目指すべき方向性としては、まずデフレ脱却を果たし、経済をインフレにする。そのうえで生産性向上を促し、経済成長を実現していくこと。
しかし、デフレが長引いている理由の一つにはデフレ対策を理解するのが難しいという点があげられるかもしれない。というのも、デフレ対策は我々の直感に反しているからである。
インフレ対策とは
需要を減らす
・増税(消費増税などで人々が消費を減らすよう働きかける)
・金利の引き上げ(投資意欲を減退させる、ローンを組みにくくする)
・公務員を減らす
供給力を増やす
・規制緩和により、より多くの企業に事業参入させる
・国の事業の民営化により、市場での競争にさらすことで効率化をさせ、供給増を図る
デフレ対策とは
インフレ対策の逆のことを行う。つまり、
需要を増やす
・社会保障費や公共投資を拡大(財政支出の拡大)
・減税(民間の消費や投資を促進する)※2
・金融緩和(個人や企業が融資を受けやすくする)
・公務員を増やす
※2 法人税の減税だけはデフレ対策にならないことに注意。 法人税を引き下げても、デフレである限り企業は投資に及び腰であるため、むしろ内部留保を増やすこと (=投資の抑制、つまり需要減) を促進してしまう。
供給を減らす
・規制強化により、企業間の競争を抑制する
・民営化しない
日本政府が行ってきた政策はインフレ対策
デフレ対策が求められていた平成というタイミングでインフレ対策(消費税導入、構造改革)が行われ、1998年から日本はデフレに突入。以降もインフレ対策は続いた(郵政民営化、構造改革、規制緩和、消費増税、公共投資の削減、小さな政府、etc…)。
唯一、金融緩和だけはデフレ対策であったが、他が全てインフレ対策なのでほとんど効果がなかった。
デフレ対策へのよくある反論
「供給過剰ということは企業の数が多すぎるということ。ならば企業間の競争を促進して競争に敗れた企業が淘汰されれば供給過剰は解消されデフレ脱却できる。」
→企業が倒産すると、その企業の投資需要もなくなる。また、その企業で働いていた労働者は失業し消費を減らす(これも需要減)。つまり、企業の倒産は供給と同時に需要も減らしてしまうため、結局需要と供給は一致せずデフレが解消しない。
「公共投資は無駄である。バブル崩壊後、巨額の公共投資が景気対策として行われたが、不況から脱することはできなかったではないか。」
→指摘は誤り。日本の公共投資が増加したのは90年代前半だけ(それも90年度から96年度にかけて中央政府+地方政府の投資額は約13兆円増加したに過ぎない)。90年代後半以降は減少に転じた。日本経済がデフレに突入したのは公共投資が減少し、消費増税(3%→5%)後の1998年からである。むしろ公共投資が少なすぎたと言える。
「日本は巨額の財政赤字を抱えているのだから、公共投資を増やすことはできない。」
→日本は自国通貨建ての国債を発行しており、また銀行は日銀当座預金を通じて国債を購入している。財政の問題は存在しない。
(これだけでビッグテーマであるため、詳細は別の機会に取り上げたい)
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