MMT (Modern Monetary Theory: 現代貨幣理論) と聞いてどんなイメージを持つでしょうか?
テレビなどのメディアや財務省、主流派と言われる経済学者はこぞってこれを批判し、プライマリーバランス※1黒字化目標や緊縮財政 ※2 を正当化しています(←逆に、MMTはデフレ下のこれらを批判します)。インテリそうな人たちが「そんなのはトンデモ理論だ」と言っていると、中身はよくわからないが何となく間違った理論と思ってしまうケースは多々あるのではないかと思います。(というか私がそう思ってました)
ですが、この思い込みはかなり大きな問題であると最近気が付きましたので色々とまとめておこうと思います。
※1 「政府の税収・税外収入」と「国債費(元本返済や利子の支払いに充てられる費用)を除く歳出」との収支のこと
※2 支出をできるだけ減らして歳出規模の縮小を図る財政
MMTの考え方
MMTの要点は下記です。
①自国通貨を持つ政府は、財政的な予算制約に直面することはない
言葉通りです。ついでに「自国通貨建ての国債を発行する政府は財政破綻しない」。(2001年のアルゼンチン、2020年のレバノンの財政破綻は外貨建て国債の債務不履行であるし、2008年以降のギリシャ経済危機に関してはそもそもユーロは自国通貨でない。なお、自国通貨でも固定為替相場制を採用している場合、実質外貨建て国債と同じことになる)
②全ての経済は、生産と需要について実物的あるいは環境的な限界がある
国債発行や財政支出の限界はインフレ率である(ちなみに無限に国債発行できるなどと一切言っていない)
③政府の赤字は、その他の経済主体の黒字
〈国内部門の収支 + 国内政府部門の収支 + 海外部門の収支 = 0〉が成立する。
つまり政府の赤字は民間の黒字、政府の黒字は民間の赤字ということ。
※参考
・ 三橋貴明(2019)『知識ゼロからわかるMMT入門』 経営科学出版.
・『正しい「経済学」が出現!MMT![三橋TV第71回]』YouTube.
MMTは「貨幣とはこのようになっています」という事実としての仕組みを説明しているに過ぎませんが、前提として”信用貨幣論”の考え方を知っていなければ深く納得するのは難しいかもしれません。
商品貨幣論と信用貨幣論
商品貨幣論とは、貨幣の価値は、貴金属のような有価物に裏付けられている(つまりは金本位制)とする学説です。
信用貨幣論とは、貨幣を”負債”の一部とみなす学説です。
商品貨幣論
一般の人々が抱いている貨幣のイメージは商品貨幣論であると思われます。「物々交換の不便さを解消するために、交換時に利便性の高い商品である貨幣が生まれた」というアダム・スミスの貨幣観は商品貨幣論と結びついており、(理解もしやすいためか)広く信じられてきました。
ですが、この考え方では”銀行預金”を説明することができません。
信用貨幣論
次のような事実があります。
・銀行は貸し出しを行うとき、ゼロから”銀行預金”という貨幣が創出する
(※銀行は預金を貸し出しているのではない)
これを”信用創造”と言います。つまり、
・誰かが借金をすると、その分だけ日本国内の銀行預金の総額が増える
・借金が返済されると、その分だけ日本国内の銀行預金の総額が減る
これらは事実ですが、「そんなわけはない」「信用創造は誤りだ」と言われると話が進まなくて困るのです。
ということで安藤裕衆議院議員が日本銀行企画局審議役である藤田研二氏に「”信用創造”は正しいですか?」と確認しているシーンがYouTubeに上がっておりましたので抜粋させていただきました。
安藤裕衆議院議員の2019年10月23日 内閣委員会抜粋
『2019年10月23日 内閣委員会 安藤裕議員質問』YouTube.
信用創造機能は正しいか?→正しいです
・11:50 ~ 銀行がお金を貸すという行為について
◆ 安藤裕議員「銀行が貸し出しを行う際は、貸出先企業Xに現金を交付するのではなく、Xの預金口座に貸出金相当額を入金記帳する。つまり、銀行の貸し出しの段階で預金は創造される仕組みである。誰かが銀行から借金をすると、その分だけ日本国の中に存在する預金の総額がふえるということを言っているわけですね。日本銀行に伺いますけれども、この説明で合っているでしょうか。」
◆ 藤田研二 参考人「委員ご指摘の通り、信用創造につきましては、まず民間銀行が貸し出しを行い、それに対応して預金が増加する、こういう対応関係になってございます。もちろん、銀行が貸し出しを行うにあたりましてはまず、家計や企業の資金需要があるということが前提でありまして、借り手の返済能力なども影響するという風に考えてございます。」
・14:30 ~
◆安藤裕議員「預金というものは、誰かがお金を借りたときに生まれてくる、これは銀行の信用創造機能と呼ばれますけれども、万年筆マネーとかキーボードマネーという風に最近は呼ばれているようです。銀行は広く国民から集めたお金を元手に融資をしているのではなくて、何もないところからお金を貸しているということですね。」
・14:53~ 借金を返済するという行為について
◆安藤裕議員「お金を借りたときに預金が発生するのであれば、借金を返済したときにはその預金は消滅する、ということになるんだろうと思いますけれども、日本銀行に伺いますが、誰かが銀行に対する融資を返済したときに、日本国に存在する預金通貨はその分消滅するという理解でよろしいんでしょうか。」
◆藤田研二 参考人「委員ご指摘の通り、企業が借入金を返済する際には、銀行貸し出しが減少するとともに、預金も減少する形になるという風に理解してございます。」
国の借金(政府の負債)でも同様か?→同様です
・16:05 ~ 国の借金に置き換えると
◆安藤裕議員「国が新規国債を発行して、これを政府支出という形で、公共事業でも給料の支払いでも何でもいいんですけれども、民間に支出をした場合、民間の貯蓄はその分増えると考えてよろしいでしょうか。」
◆藤田研二 参考人「委員ご指摘の通り、発行された国債を銀行が保有しまして、財政支出が行われた場合には同額の預金通貨、マネーといいますか、これが発生することになるということでございます。ただし、これは事後的に成り立つ関係ということでございまして、財政の中長期的な持続可能性に対する信認の状況や将来の経済、インフレに対する見方などを背景に、国債に対する民間の需要自体が変動する可能性というところには留意する必要があるという風に考えてございます。」
◆安藤裕議員「国が持っている借金を国が返済したら、日本国に存在する預金の総額は同じように同額減るという理解でよろしいのかどうか、そのご説明をお願いします。」
◆藤田研二 参考人「国債が償還を迎えて発行残高が減少する場合ということでございますが、そのこと自体は現金通貨、マネーの減少につながるということでございますけれども、同時に国債残高が減少するような経済情勢のもとでは、民間の経済活動がより活発化し、貸し出しが増加している可能性も高いという風に考えてございます。その場合、全体としてマネー、預金通貨が増加するか減少するかというところは様々な状況がありうるかという風に思ってございます。」
19:06~
◆安藤裕議員「国債残高を減らすということは、日本の国に存在する預金の額をそれだけ減らすということになります。単純に国債残高を減らすということを目標にするということは、預金の残高が減るということですから、日本国民は間違いなく貧しくなるということであろうと思います。」
まとめ:信用貨幣論は正しく、MMTの考え方③も正しい
上述の答弁より、商品貨幣論ではなく信用貨幣論が正しい、と日本銀行も認めているわけです。
それと同時に、説明中に”MMTの考え方③ 政府の赤字は、その他の経済主体の黒字”も認めていますね。
信用貨幣論について、少なくとも日本銀行ですら「事実である」と言っていることは知っておいた方がよいのではないでしょうか。
ちなみにMMTへの反論は商品貨幣論を前提として考えられていることが多く、また信用貨幣論が正しいと思っていても、頭の中で商品貨幣論で考えてしまうことはあるあるのようですので、頭がこんがらがってきたら一度信用貨幣論論に立ち返ってみるのがよいのかもしれません。
なお、MMTの考え方①は”政府の国債発行プロセス”、②はそれとともに”GDP”や”三面透過の原則”について知ると納得がいくのではないかと個人的に思いますが、またの機会とします。
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